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婚期を逃していた

田舎のことですから、一度結婚の時期を逸するとなかなか出会いが巡ってこないものです。

私自身に結婚の希望が無いだとか諦めたとか、そんなのではないのです。

40半ばを過ぎてしまっただけの、ごく普通の男性です。

容姿が良いとは決して言えませんが、不快感を与えるものでもないと思っています。

一端の恋愛だってありました。

その相手との結婚を、考えなかったわけでもありません。

ただ両親が相手の職業を強く嫌がった、それが別れを決定的にしました。

私が悪かったのです。

もっと相手を庇ってあげればよかったものを、つい両親の反対に押され相手に悲しい想いをさせました。

私を本心から好いてくれた彼女に、深い心の傷を負わせたことは男として最低です。

今頃になって「あの時の人で良かとに(よかったのに)」などと言い出す両親に不愉快さを感じますが、それも私の責任。

彼女はその後出会った男性と結婚をし、幸せになっています。

父が脳梗塞で倒れ家業である農業を継ぐことになってから、出会いはますます減りました。

農家は1日の流れを見れば自由な時間も多いのですが、反対に365日休みがない仕事とも言えます。

20代30代であればそれでも遊びにいく体力気力が溢れていますが、40代ともなれば明日の朝の早さを考え「寝ようか」となってしまいます。

近所の仲間と飲みに行くこともありますが、村の中にある居酒屋は一件だけ。

飲むのもいつものメンバーならば店の中のお客さんすら顔見知り、出会いなどどこにもありません。

農閑期とて冬ですので、23時を過ぎれば道は毎日凍結です。

街に降りて飲みに行った帰りは代行運転を頼むことになりますが、どこそこまでと相手に告げると断られてしまいます。

凍った道はよっぽど慣れたものでないと、四駆だとしても怖いものです。

そんなある日、村の居酒屋に一人の女性が従業員として働くことになりました。

見掛けが華やかな彼女に、私は夢中になりました。

彼女も私を好ましく思ってくれているようで、彼女の休みの日にはドライブをしたり買い物をしたり映画を見たりと、私にもやっと出会いが訪れたと心踊るような毎日を過ごしました。

二人で家庭観なども話すようになり、プロポーズの時期をどうしようかと私が密かに考える、そんな関係になりました。

よい日取りを選び予め用意していた指輪を持って、彼女との待ち合わせに向かいました。

指輪を見た彼女は浮かぬ顔を見せます。

「オイのことが好きやなかとか?(オレが好きじゃないのか)」と訊くと「そんなことはない」と答えます。

「じゃなんでそげな顔をするとか?(どうしてそんな顔をするの)」の問いかけに、彼女はようよう家の事情というものを話し始めました。

察しの良い方はここでお分かりでしょう。

私は彼女を信用していましたから、100万ほどと指輪を渡しました。

そのあと彼女は村から消えました。